甘い媚薬はPoison
「この市場はまだ未開拓に近い。オリジナルストーリーのアドベンチャーゲームパートと音楽リズムパートで構成し……来月から開発を進めていく」
蓮くんの説明に皆が真剣に聞き入っていた。
彼は常に先を見通している。
中学生の女子がターゲットか。
私もつい最近まで学生だったし、なにか役に立てるんじゃないだろうか。
この会社に就職してから、通勤時間はスマホのゲームをしていろいろと勉強している。
決して遊んでいる訳ではない。
彼の話が終わると、皆自分の席に戻った。
私も一旦席に戻るが、椅子には座らず、ランチバッグを持ってすぐに社長室の方へ戻る。
「蓮くん、お弁当作ってきたの。よかったら食べて」
ガラス張りの社長室のドアをノックせずに開けると、愛しの蓮くんに声をかけた。
「いらない。それに、会社では『朝比奈さん』と呼ぶように」
蓮くんに冷たく断られたけど、この程度で落ち込むような私ではない。
彼がつれないのはいつものこと。
「じゃあ、お弁当だけでも受け取って。早起きして作ったんだよ」
保冷バッグに入れたお弁当を差し出すが、蓮くんは見向きもしない。
「いらない。お前の弁当食って死にたくないから」
再度繰り返される冷ややかな拒絶の言葉。
幼馴染みの彼は、私が料理が出来ないのを良く知っている。
私は過去にカレーを作り、父を病院送りにしたことがあって、その場に彼も居合わせたのだ。
「そう言うかと思って、今日は全部冷凍食品にしたんだよ」
私だって気を遣っているのだ。
得意げに言うが、蓮くんは私に鋭い視線を向けた。
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