甘い媚薬はPoison
それから一年も経たないうちに愛梨が俺の会社の採用試験を受けに来て、正直戸惑った。
試験を受けてここまで来たのだから、コネは期待していないはず。
彼女は文系で、ゲームソフトの開発に興味はなかった。
彼女のためを考えるなら、うちより他の会社を受けた方がいい。
そう思って俺は採用しなかったのだが、杉山が変な気を利かせた。
「朝比奈が落とした岸本愛梨さん、僕の枠で採用したから」
杉山とは高校からの付き合いで、俺が愛梨を大切に思っていることを知っている。
ニコニコ顔で言われちょっとムカついたが、俺も採用を取り下げることはなかった。
愛梨はうちの会社に入ると、大学時代の男と別れたのか、毎日のように社長室にやって来た。
「蓮く~ん、お弁当作ってきたの。よかったら食べて」
「いらない」
調子のいい奴と思いながらも、つい愛しげに彼女を見てしまい、杉山によくからかわれた。
「やっぱり、愛梨ちゃん雇って良かったでしょう?朝比奈の顔、デレデレしてるよ」
「誰が?」
反論するようにギロッと杉山を睨むと、自分を律して仕事に集中。
愛梨がいると自分の理性がなくなりそうで怖かったんだ。
だから、今まで以上にストイックなまでに自分を追い込んで仕事に専念した。
帰宅時間はいつも零時を過ぎ、週末も休まず仕事。
ある日、接待を終え深夜の一時過ぎに帰宅した俺を、歩が腕を組み仁王立ちして待ち構えていた。
「いつまでこんな生活続けてんの?」
いつも穏やかな歩の眼差しが、その夜は静かな怒りに燃えていた。
「会社が東証一部上場するまでかな?」
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