未来(あした)が来るなら、ずっとそばで笑ってて。
壁に染みついた消毒薬の微かな刺激臭も、無菌室の機械の作動音も。
廊下の薄暗い蛍光灯も、【緒方咲雪】と書かれたプレートも。
咲雪が死ぬ前と少しも変わっていない。
「……なんでかな。頭の中では咲雪が死んだってことはわかっているのに、ここにいると、今にも咲雪の声がこの中から聞こえてきそうな気がするな……」
俺が呟くと、悠聖の目にジワッと涙が浮かんだ。
「……圭祐も、そうか。……俺も、ここにいると咲雪が死んだってことをどうしても受け入れられないんだ。
さっき、咲雪が俺の腕の中で息を引き取ったのはただの悪い夢だったんだって……。
信じたくないよ‼咲雪が、もう、どこにもいないなんて」
自分の膝に顔を埋める悠聖の震える肩に、そっと手を回した。
「わかるよ。その気持ち、すごくわかる。
……でも、咲雪は死んだんだ」
心を鬼にしてその事実を告げると、悠聖は意外にも素直に頷いた。