エリート上司の甘い誘惑

部長の手は、ほんの僅かに触れただけですぐに離れていき、後はまたすました顔でグラスを取る。


今、すごく、上司と部下ではあっちゃいけないような触れ方だった、気が。


なのに部長があんまりにも普通の顔でそこにいるから、ぐるぐると頭が混乱した。


気のせいだった? いやいやそんな馬鹿な。
あれ、耳触るって結構普通? 
そんなわけあるか!



「い、いま。耳っ……、」

「あんまり赤いから。そんな赤くなるような、何があった?」



耳を触られたことを咎めたはずなのに、余りにも自然に流されてそれ以上追及する言葉を失い、ぱくぱくと唇が空ぶった。
それどころか、逆に私がなぜか責められている。


怖いくらいの、綺麗な笑顔で。



「な、なにもないですってばほんとに、」

「顔が赤くなったり青くなったり忙しいな」

「なってませんっ」



もう勘弁してください、と声を上げた。
くく、と顔を伏せ肩を揺らす部長に、からかわれたのだとようよう気が付いた。



「ひどいです。部長、もしかしてもう酔ってます?」
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