エリート上司の甘い誘惑
え、と、声にはならなかった。
頬杖に、苦笑いみたいなちょっと崩れた微笑を乗せて、その艶やかな雰囲気に一瞬で飲み込まれた。
男の人を、色っぽいと思ったのは、初めてだった。
言葉がない私の内心を、見透かすようにじっと見つめる視線から、逃げようにも逃げられなくて。
「可愛いよ」
と、重ねられた言葉に、固まっていた身体が漸く反応する。
かあ、と身体も顔も熱くなるのを、止められなかった。
「や、やだな、部長、」
からかわないでくださいよ、と笑い飛ばしたくても、狼狽えてしまってまともな言葉が出ない。
私がこんなにあたふたとしているのに、目の前の部長は少しも動じていなくて。
あ、あれ?
そもそもなんで、こんな話をすることになったんだっけ?
事態に対処できないうちに、また一つ縮まろうとする距離。
部長が身体を少し乗り出して、再び私に手を伸ばしたのだ。
驚いて身をすくませる。
頬に指が触れて、ただそれだけで背筋がざわめいた。
指が、撫でるでもなくただ、触れてるだけ。
「ふ……さっきより赤い」
そう言った部長は、何か嬉しそうだ。
意味がわからなくてひたすら目を白黒させる私に向かって、何やら満足げに笑って頷く。
「えっ、えっ?」
「卑屈になるな。お前が逆に、ちゃんと男を選べ」
「え、」
触れていた指が、とんと私の肌を叩いて離れていく。
同時にすう、と息苦しいほどの甘い空気も和らぎ、ほっとするようでいて、少し寂しさも感じた。
ああ、そうか。
可愛いって、励まそうとしてくれたんだ。
と、気付いたから。
「ちゃんと、好きな人を選んでるつもりなんですけど」