エリート上司の甘い誘惑
外に出ると、冷たい空気が顔の肌を冷やし、首を竦めた。
週末ということもあり、平日なら人の引け始める時間だが今夜はまだまだ賑やかだった。
「結構飲みましたね。美味しかったです!」
ありがとうございます、と隣を歩く藤堂部長を仰ぎ見る。
私以上に飲んでたはずだけど、顔色はちっとも変わっていなかった。
タクシー乗り場まで歩くか、と動き出す。
歩くテンポは、仕事中には考えられないくらいかなり緩い。
「いい酔いざましになるな」
「ですね。……あ!」
「なんだ」
「結局私ばっかり喋らされて、部長に何も質問できてない!」
そうだ、聞かれたら答えてやるとか言われてたのに、なんだかすっかりペースを奪われいつのまにか忘れていた。
「今頃。すぐにタクシー乗り場に着くぞ」
「えっ、そこがタイムリミットですか? えっと、じゃあ」
焦って質問を考えるが、思いつくのはありきたりな、一点だけだ。
「か、彼女はいますか!」
「今はいないな」
はい終了ー。
ってこれじゃあ。
「終わりか?」
「いえ待って、待って! これじゃあ私ばっかり喋らされて納得いきません!」
えーと、えーと。
頭を悩ませる間に、ひゅるんと冷たい風が吹く。
即座に首を竦めれば、ぐるぐると首に巻いたマフラーに顔が埋まった。
「……亀だな」
「え。」
「顔が半分埋まってる」
くい、と口元を隠していたマフラーが、下に引かれた。
笑ってる。
この頃思うのは、部長は仕事中でなければ結構、笑い上戸だ。
そして何か、とても優しい顔をする。