エリート上司の甘い誘惑
「ちょっ……痛いってば!」
店の中には聞こえなくとも、通りを行く人は何人か振り返った。
隣の店との路地の中まで連れ込まれそうになって、そこで漸く腕が離れる。
「何考えてんの?」
「社内でも話せないし外でも会ってくれないから仕方ないだろ」
「いや、仕方ないって……」
会うわけないよね?
話だってもうないでしょう。
開き直った言い分に、言葉が続かない。
別れ話の時、私に何一つ発言させなかったのは、一体誰だ。
ショックを受けて放心状態の私の前から、そそくさと消えたのは園田の方なのに一体今更、何を話そうっていうんだろう。
「ほんとに悪かったと思ってんだよこれでも。……酷いことしたって思ってる」
態度を軟化させない私にしびれを切らしたのか、園田がここにきて初めて下手に出た。
「悪かったよ」と言っても彼はいつも不遜な態度で、今まで全く謝罪には聞こえなかった。
それが今になって、神妙な顔で私にすがっている。
「それは、別れ話に対して? それともずっと浮気してたこと? それとも浮気が私の方で向こうが本命だったこと?」
いらいらして、ずっと燻ってたことを初めてぶつけた。
園田は、驚いた顔で数秒黙り込む。