エリート上司の甘い誘惑
「え……ああ、東屋くんは……って酷くないですか」
随分な言われようだ。
それともすぐに東屋くんに変換した私が酷いのでしょうか。
けど、確かにいつも後ろにくっついてるという点で言えば、東屋くんしか思い浮かばないのも確かだ。
「じゃなければ番犬か。なんで肝心な時に連れてない?」
「いや、連れてないって……いつも私が自主的に連れてるわけじゃないですけど」
真面目な顔で言う部長とは裏腹に、私は何かこの会話が可笑しくてつい口元が綻ぶ。
「笑いごとじゃない」
「すみませ……、だって、部長が」
ふ、とこらえきれずに笑いが零れた。
それがどうにも止まらなくなって、口元を隠して俯く。
「俺が、なんだ。笑いごとじゃないぞほんとに……言い争う声がして近づいてみれば……」
だって、部長が来てくれて嬉しくて、心配してくれたことも、嬉しくて。
そして口ぶりが何か、可笑しくて。
それと同時に、込み上げてくる感情がある。
甘くて、あったかくて、せつない。
ひとりで抱えるにはやるせない、言葉にして伝えたくなる気持ち。
「そんなに笑うようなことを言ったか?」
呆れたような、苦笑い混じりの声。
返事もままならないほどに、自分の気持ちを持て余していた。
どうしよう。
好きだ。
傍にいるだけで、声を聞くだけで「好き」の感情が溢れてくる。
一度溢れてくると、もう顔なんて上げられなくなってしまった。
あの腕時計を、部長にだけ見せようと思った。
だから身にはつけずに鞄に忍ばせてきた。
そう決めた時点で、自覚もしてた。
藤堂部長が、好きだ。
憧れだったはずだ、いつからなんてわからない。
理屈なんて、知らない。
ただ傍にいれば嬉しくて、せつなくて、泣きたくなる。
胸に溢れて、言葉に出来ず堰き止められた感情で、溺れそうになる。