エリート上司の甘い誘惑
「西原?」
「……いえ。なんでも」
訝しむ彼の声に、笑って誤魔化そうとしたけれど。
名前を呼ばれただけで、胸の奥が苦しくなる。
どうにかしなければ、と深呼吸をすれば。
髪をやんわりと、撫でられた感触が伝わった。
「……このまま、二人で抜けるか」
「え……」
不意の提案に思わず顔を上げた。
しまった、赤い顔を見られたとすぐに気づいたけれど、部長はそれを揶揄ったりはしなかった。
ああ、まただ。
部長が私を見つめる目は、なんでこんなにあったかくて蕩けるように甘いんだろう。
いつだって、溶かされそうになる。
なのに部長は、私をどう思っているのかなんて口に出して言わない。
ただずっと、思わせぶりな態度ばかりだ。
どうして?
なんで?
聞けば答えてくれるだろうか。
聞かなきゃ教えてくれない?
本当は部長は、とてもずるい人なんだろうか。
「でも……部長」
「ん?」
「私、幹事だし」
「はは、そうか。そうだな」
ふ、と甘い空気が周囲に散りかけて、あ、と少し寂しい気持ちになる。
だけどすぐに、彼が屈んで私の耳元で囁いた。
「じゃあ、この後でいい」
「え?」
「時間をくれ。二人で会いたい」