エリート上司の甘い誘惑
この、あと。
考えただけで、緊張してしまう。
話の切り出しはどうしたらいいだろう?
タイミング見計らって?
タイミングって何。
絶対噛みそう。
考えすぎるほどにトイレから出たくなくなってきたが、待たせるわけにもいかないのだ。
もう、緊張してどうしても話出せなかったら、とりあえずちょっとお酒飲んで課長の様子をまず確認するだけでもいいじゃないか。
そうやって自分に少し逃げ道を作っておいて、なんとか気を取り直した。
深呼吸を、ひとつ。
トイレを出ると店員にお世話になりましたと会釈しながら、出入り口を目指す。
「さよ!」
外に出ると、先を急いで帰った何人かはいるようだがまだ殆どの者が残っていて、解散の合図を待っているようだった。
その中から、望美が私を呼んで手を上げた。
「ごめん、遅くて。もしかして私待ち?」
「それもあるけど、もう一軒、二次会行くかって話になってて」
「え、そうなの?」
それは予想していなかった。
皆行くなら、ここで抜けるというのは付き合い悪いだろうか。
二次会にまで出てしまうとかなり遅くなる。
それからだと……部長との約束は流れてしまいそうだ。
思いもよらない展開に狼狽えながら、部長はどうするつもりなんだろう、と判断に迷った。
「東屋くんが課長や部長も誘ってて、結構な大人数になりそうだけど」
望美の言葉に驚いて男性陣の集まる方を見ると、東屋くんが藤堂部長に向かって胡散臭い笑顔を向けているところだった。
「藤堂部長! 遅れて来られたんですからぜひもう一軒付き合ってくださいよ」
愕然として東屋くんを見ていると、ちらりと彼がこちらを振り向き黒い笑顔を見せる。
あーずーまーやー!
貴様の妨害か!
さっきの、ちょっとせつない感じの流れはどうした!