エリート上司の甘い誘惑


「ま、待って……部長っ?!」



半ば引きずられるようにして、部長の後に続く。
幾つもの知った声が上げる悲鳴や野次から、早足で遠ざかる。

部長の足が速すぎて、隣に追いつくのが大変だ。
皆の声が聞こえなくなりやがて緩んだ速度に、やっと隣に並んで横顔を見上げた。



「部長ってば、いいんですか?!」

「何が」



その横顔は、とても楽しそうだ。



「何が、って。だから」

「酒の肴にちょうど良いネタを提供してやったんだ。二次会にまで付き合わされてたまるか」

「ネタって……絶対今頃あーだこーだ憶測が飛び交ってますよ?!」



東屋くんとも絡めた憶測が、あれこれと!
週明け、出勤したら絶対ニヤニヤ見られますよ?!



「好きに言わせておけばいいだろう。何か問題があるか」

「問題……は……」



そりゃ。
私としては、変な噂が立って部長の迷惑になったらいけないんじゃ、ないかって。
それが問題なわけで。


言葉をなくす私を、部長が横目でちらりと見て、微笑む。


掴まれていた手が、一度緩む。
離れたくなくて、つい指先に力が入る。


指と指を互い違いに、掌を握り込まれた。



「大体、いい加減腹も立ってたんだ」

「え、」

「東屋のドヤ顔に、どれだけイライラさせられたと思ってる」

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