エリート上司の甘い誘惑
「俺の、行き付けだ」
そう言って店内に入っていく、部長の後を追い足を進める。
然程広くない、だけど奥行があって細長いL字型のカウンター。
その中にいる、綺麗なバーテンの顔にも見覚えがあった。
まだ酔いつぶれる前に見たことなら、記憶は正確だったと今目にしたことで確信した。
「いらっしゃいませ」
と微笑んだバーテンは、私の顔を覚えていたのかそれとも今現在も半泣きの表情をしているからか、一番奥の隅の方、目立たないところに私達を促した。
部長は何かのロックを頼み、それから私の顔を覗き込む。
「西原は、ブルームーンか?」
部長の口から、あの日私が飲み倒したカクテルの名前を聞いた。
「部長っ……」
やっと確信を得て、実感を伴って、ぼろぼろっとまた涙が落ちる。
部長はまるで何かに根負けしたように、疲れた顔をして笑っていた。