エリート上司の甘い誘惑
このままでは、身動きがとれなくなる。
それともここで少し寝かせてやって、酔いが覚めるのを待つべきか。


いや、そんなもん待ってたら何時になることか。



「タクシー呼びましょうか藤堂さん。こんなとこで寝かせては可哀想ですよ」

「…………頼む」



バーテンダーの一言で、とりあえずその場を撤退することだけは決まった。


程なくしてタクシーが店の前に来たと言われ、もしもの為のビニール袋をバーテンダーから持たされてなんとか西原をタクシーに乗せた。



「西原、住所は」

「……うえ?」

「住所だ、どこに住んでる?」

「ぁー……F県、T市……」

「F県か……ってそれ実家かなんかだろ!」



通勤距離ありすぎるだろそんなわけあるか。



「お客さん、免許証か何か、確認したらどうですか」



当然、早く行先を指定して欲しいのだろう。
運転手が愛想笑いを浮かべながらも、言外に早くしてくれと意思表示する。


仕方ない、と西原の手荷物から免許証を引っ張り出した。

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