エリート上司の甘い誘惑
初めてこの部屋に入った俺でも、ふと目に入ったもので気付くほどだ。
きっと、毎日この部屋に帰る西原にとったら、食器棚だけでなくあちこちに園田のことを思い出させる何かがあるだろう。


そう思い至ると、自然と声のトーンも柔らかくなる。



「西原?」



彼女は、さっきベッドに座らせたところから動かずじっと俯いていた。



「ほら、水だ」

「…………、」


「気分が悪いのか?」



呻くような声が聞こえた。
近寄ってサイドテーブルに一度グラスを置き、彼女の肩に手を置くと微かな震えが手のひらに伝わる。


やはり吐きそうなのかと、跪いてその顔を覗き込み、息を飲んだ。


下唇はきつく噛まれて、震えていた。
堪えきれない小さな嗚咽が、口の中に閉じ込められているのが微かに聞こえる。


大きく見開かれた目には、涙の膜がたっぷりと張られていて。
ぱた、と一粒眦から零れ落ちた雫がワンピースの膝を濡らした。



「……西原」



細い肩を、強く掴んだ。
それでも彼女は、微動だにしない。

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