エリート上司の甘い誘惑
「泣くな」

「お前は可愛い」



上司と部下。
それだけに過ぎなかったのに、今その概念が綺麗さっぱりなくなっていた。


頬に触れ、慰めることこそが当然のことのように思えた。
正面に跪く姿勢から腰を上げ、ベッドの上で寄り添うように座り抱きしめた。


髪を撫で、首筋を支え、顔をこちらに向かせると。
赤くなった瞼に引き寄せられるように口づけた。



「西原」



彼女が今、強かに酔っていて、相手が俺だとわかってないかもしれないことや、今も園田を忘れられず想っているかもしれないことや、配慮しなければいけないはずのそれらのことが全部頭の中で後回しにされる。


両の瞼に順にキスを落とし、泣いた為か高く感じる肌や吐息の熱に劣情を煽られ、吐き出した自分の息も熱かった。


そのまま唇にも触れそうになって、かろうじて踏み止まる。
額を合わせ、彼女の意思を窺うようにしながら自分の心にも問いかける。


無責任に手を出していい相手じゃない。
これ以上は、冗談ではすまなくなる。


そう自分に言い聞かせても、目の前の彼女がいじらしくて愛しくて。
健気な彼女を、どうしても欲しくなった。


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