エリート上司の甘い誘惑
少し顔を上げさせ、一瞬だけ唇同士を触れ合わせた。
そうしてまた額を付け、彼女に抵抗の兆しがないかを確認する。


逃げる様子はない。
それに、涙も止まった。


許しを得たような、気がした。
そのことが、まるでキスを覚えたばかりの頃のように、気持ちを逸らせ高揚させる。


目を閉じ、彼女の唇を啄んだ。


不思議な、感情だった。
これほど、壊れ物を扱うように女に触れたことがあっただろうか。


自分の腕の中にあるのは、繊細なガラス細工のように感じて、出来る限り優しくそっと。
唇で涙の痕を拭いながらのキスは涙の味がした。



緩やかに、それでもやがて深くなるキスに違いの吐息の熱は上がる。
指がつい、素肌を探して彷徨った。


二の腕や、襟元、鎖骨。
首筋を上がって、耳の後ろからうなじに触れた。


指先で、見つけてしまったワンピースのファスナーを、どうするべきか迷ったのは一秒ほどだ。
ちりちりと、引き下ろしていく。

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