エリート上司の甘い誘惑
「……西原、」

「んっ、うぅ」



覆い被さったまま、また涙の戻った頬に口づけ唇を奪う。
ぐ、と拳を握りしめ、抗いがたい欲情を無理矢理抑えこんだ。



「さよ、」

「や、」

「……好きだ」



涙を拭うキスだけを、今は。
言葉に嘘はなかった。



「好きだ。可愛いよ」



自分の中に燻る欲情を果たすためではない。
ただ、彼女に伝えてやりたかった。


俺が、この僅かな時間で心奪われたほど、お前はいい女だと。


キス以上は触れないとわかると、また徐々に身体の強張りが解けていく。
涙も止まる。


その様子に、ひたすら庇護欲を掻き立てられ、また頭を擡げる劣情に苦笑いが零れた。



今は、これ以上は触れないでいてやる。
お前が俺を、好きになるまでは。



ただ、酔いに紛れてこの記憶が消えてしまわないように。
今、触れることを許されている素肌に吹き込むように、キスを繰り返した。


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