エリート上司の甘い誘惑
きっと私は、間抜けな顔を晒していただろう。
意味を把握するのに、数秒の時間を費やした。
それから、その言葉が誰に向けられているのかを実感するのにまた数秒。
部長の目はずっと私だけを見ていて、しかもまた、あの蕩けるような視線だ。
わ、私?
と、口に出すのは恥ずかしくて、自分で自分を指差してみる。
「他に誰がいる?」
その言葉を聞いて、やっと身体が反応した。
ぼん、と熱が上がる。
ジンジンするくらいに、耳が熱い。
「う、うそだぁ……」
「疑うな。さすがにもう、これ以上は凹む」
「ええっ?」
「……くそ。思わせ振りなのは一体どちらだ」
甘かったはずの空気が、一転して私を責めるような口振りに変わる。
眉根を寄せて、不機嫌そうに頭を掻いた。
「あの日も言った。何度も、繰り返し。でもお前は」
「な、なんですか」
「キスは受け入れるくせに、好きな男じゃなければ触れられるのは嫌だと言った」
「え……」
「嫌だと言って泣くくせに、キスを止めても泣くんだ、お前は」