エリート上司の甘い誘惑
どちらの家でも良かった。
恐らくはほんの少し、部長の家の方が近かったというだけのことだ。
タクシーを降りてマンションのエレベーターを上がる間に、肩を抱かれた。
頭にキスを落とし、抱き寄せた手の指が落ち着きなく私の首筋や頬を撫でる。
無言だけど、時折落ちる溜め息や息遣いが、早く触れたいと言ってる気がした。
玄関に入った途端、それは気のせいじゃなかったのだと教えられる。
「ん、う」
貪るような、口付けだった。
苦しいほどに、もっと、もっとと舌も唇も食べられる。
つい、腰が引けた。
それは許されないと、玄関扉に押し付けるようにしてキスは続く。
かしゃん、と音がした。
未だ私の手首にある部長の腕時計が、背後の扉に当たった音だった。
「んっ……部長、あの」
部長の身体を押し返して、なんとか唇に隙間を作る。
彼は、なんだ、と不満げに眉を寄せた。
「時計がまだ、」
「後でいい」
「でも、傷が」
「いい」
そんなことかくだらない、とでも言いたげだ。
くだらなくない。
あの時計の金額を知ってるだけに、全くくだらなくないのだけども!
部長は、私の顎を片手で持ち上げ、一層深く口づけた。
時計なんかに気を取られるなと言わんばかりに、しっとりと、丁寧に、確実に私を酔わせていく。
徐々に、力が抜けた。
抵抗するつもりなんてもとよりないけれど、私がすっかり身体ごと彼に支えられるように預けてしまうころ。
ようやく、激しいキスが少し、柔らかくなり。
砕けた腰を抱く力強い腕に、私は寝室に招かれた。