エリート上司の甘い誘惑
「部長っ、」
「ここは、オフィスじゃない」
優しいのは、キスと眼差しだけだった。
とろとろに身体も心も溶かし、彼は愛おしむように私を見下ろす。
もう私の意識が朦朧として定かでないこともわかっているくせに、耳元で、名前を呼べと何度も強請る。
「と、藤堂、さ……」
「違う。…………さよ」
腕時計を付けたままの手首に、彼が口づけた。
裸の腕に、ぶかぶかの腕時計が酷く煽情的で、それが尚更身体の感度を上げるのだろうか。
たかが手首のキス。
それだけで背がしなる。
頭の中が、真っ白になる。
いうことを聞いてくれない身体を震わせ、身を捩りながら彼の名を呼んだ。
「隆哉さんっ……!」
隆哉さん、隆哉さん。
名前を呼ぶたび、彼は満足げに微笑んで私の頬を撫で、あちらこちらに口づける。
翻弄され、乞い、この身体をどうにかしてくれと縋りついた。
もっと、と強請るように彼の腕にしがみつく。
もっと、もう一度、唇にキスして欲しい。
「可愛いよ、さよ」
首筋に縋り付き、虚ろな視界のなかで声を頼りに彼の唇を探した。
もう二度と薄れてしまわないように、忘れてしまわないように、消えないキスを、もう一度。
懇願する私の目に気づいたのか、彼が深く唇を合わせてくれた。
確かに、彼の宣言通り。
恥ずかしいなんて余裕はどこにもなくなった。
その代わり、息も絶え絶えになるくらいの長い時間を、抗いようのない熱に翻弄された。
“恥ずかしい”という言葉は時に、自分の首を絞めるらしい。
とても、勉強になった。