エリート上司の甘い誘惑

「ぶ、部長、」
「部長じゃない」
「た……隆哉さん……あの、もう」


もう無理!
無理ですから!
何が無理って、これ以上コトを致すのももう無理だし、このシュガーポットの中に閉じ込められたような、甘い空気ももう無理です!勘弁してください!
その上彼は、蓋をあけてはポットの中の私を愛で、サラサラと砂糖を補充するように、甘い言葉を囁く。


「大した威力もない拳でものを言おうとするな。こんなにか弱い手をしているくせに」


そうして、私の手を取り指先ひとつひとつに口づける。


か弱くない、全くか弱くない。
ジャムの蓋だって一人で開けられるし、もし堅くなってても誰かに頼ったことはない。蓋を温めたりシリコンの鍋敷きで掴んで捻ればちゃんと開くんですー!


わざとやってる、絶対わざとやって困惑する私を楽しんでいるんだ!


もしくは、私という人間が間違った認識をされているのかもしれない。
部長の目に、私は一体どう映っているんだ、と心配になってくる。


…………あ、違った。
部長、じゃなくて……隆哉さん。


心の中で言い違ったって、誰も咎めはしないのに、いそいそと言い直す私もきっと、このシュガーポットの空間を幸せには感じているのだろう。

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