エリート上司の甘い誘惑

忘年会後の土日をそんな感じで濃密に過ごし、結局、日曜の夜になるまで家に帰してももらえなかった。


なぜ帰ろうとしなかったかって?
それは、帰りたいと言えば、なぜだと聞かれるからだ。
眉根を寄せ、まるで私がおかしな発言をしたような目で、見つめてくるからだ。


おかしい。
なぜもくそもない、自分の家だから帰るのだ!


さすがに日曜、そう主張して漸く家まで送ってもらい、車中、別れ際のキスでも随分と名残惜しむ彼を何とか宥めようとする。


私だって、一緒に居たくないわけではない。
園田の件もある。
異動の話で牽制はしてあっても、本当に大人しくなってくれるかといえばわからない。


だがしかし、気持ちが通じ合ってすぐに、これではちょっと、女として貞操観念に危機を感じる。


それに女にはお泊りするにしたってそれなりの準備というものがあるし心の準備だってそれに含まれるし、部屋に何日も帰らないのはやはり心許ない。


牛乳ギリギリだったけど大丈夫だったかな、とか。
生ごみまとめとかなくっちゃ、とか。あるのだ、色々と!


それにしても驚きだ。
仕事中の彼からは、想像もできない姿に、恋人にはいつもこんな感じなのかと一応聞いてみた。


彼はしばし考えたのち。


「いや。……そう、でもない」
「……そうなんですか」

「ここまで手がかかるのは、今までいなかった」
「私が何かご迷惑を?!」


まさかの、私のせいだった。


「迷惑というより、放っておいたら誰に持っていかれるかわからない」


犬とか猿とか。
と、ぼそりと呟いた。


犬と猿って。
さすがにそれが誰を差しているかわからないほど鈍くはない。


「……犬も猿も両方九州にやっても良かったんだ」


まるで独り言のような職権乱用発言には、些か肝を冷やした。
そんな感じで漸く部屋に戻った時には、夜も十時を回っていたのだった。

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