エリート上司の甘い誘惑
忘年会を終えても仕事納めまでは当然忙しく、オフィスは軽口を叩く余裕もなくなるほどで、やがてすぐに浮かれた空気は吹き飛んだ。
ただ、事実として私と部長が付き合い始めた、という認識が皆の中に加わっただけ。
毎年と同じように、皆忙しく働き、日は過ぎていく。
「お疲れ」
「お疲れ様でーす」
若干疲労の色も窺える声音のやりとりだが、中にはそわそわと急ぎ足でオフィスを出て行く者もいた。
理由は簡単、今夜がクリスマスイブだからだ。
私は明日の仕事を楽にしておこうと、少しだけ残業をしていた。
というのも、今日は夕方から外出していた部長と外で待ち合わせをしており、その時刻まで間があったからだ。
フロアから人の気配が消えた頃。
パソコンの電源をオフにして、デスクの上の書類を片付ける。
帰り支度を粗方終えたところで、久方ぶりに真後ろから声がした。
「お疲れ様です、さよさん」
「東屋くん。お疲れさま」
彼が私を「さよさん」と呼ぶのは、相変わらず直らない。
だけど、それを聞くのはなんだか本当に久しぶりだった。
それだけこの頃のオフィスが忙しく無駄口を叩く暇もなかったからだが。