エリート上司の甘い誘惑


「なんか久しぶりですよね。良かったら食事に行きませんか」

「いやいや。クリスマスだよね」

「クリスマスじゃなくても行ってくれないくせに。部長のガードも鉄壁だし」



ちぇー、と唇を尖らせる様子に、くすりと笑う。
同時に、酷く切ない。


以前と同じように食事に誘うセリフも、今は断られることが前提のニュアンス。
彼もわかってて、言っているのだ。


きゅっと胸が締め付けられる思いだった。


「今日は、部長とデートですか?」

「うん。っていっても、家でゆっくりクリスマスしようかってだけだけど」

「どこか良い店連れてってもらえばいいのに」

「そういうのもいいんだけど……。好きなのよね。チキンバーレルとか、一人じゃ食べきれないけど、あのクリスマス限定のやつが。あと、ホールケーキとか」

「可愛い、子供みたいですね」



うるさいなあ。
と言って、目を逸らして笑う。


それきり漂った沈黙に、私はすぐにも逃げ出しそうになったけれど、思い直して踏み止まった。
今までずっと、東屋くんに対して何かを言うべきか、それともこのまま何も言わずにいるべきか考えていた。


だけど、やっぱりちゃんと、伝えておかなければならない。
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