エリート上司の甘い誘惑
「まあ……いいけど。それくらいなら」

「えっ? ほんとに?」



自分が言い出しておきながら、私があっさり了承したのが意外なようだった。
彼はちょっと、瞠目して瞬きを繰り返している。



「別に、食事くらい。声かけてくれれば」

「まじすか、やった」

「何。なんか大袈裟過ぎて後悔しそうなんだけど」

「いきなり後悔しないでくださいよ!奢るよなんでも!」

「別に自分の食べた分くらい自分で払うわよ、カノジョじゃあるまいし」



えらい勢いで喜ばれたので、今度は私の方が驚いてしまった。
でもまあ、可愛い後輩に懐かれるのは、悪くない。


けど。
ちょっと、からかってみたくなる。


「いえいえ、誘ってるの俺だし、女性に出させるなんてありえないから」

「そういうこと気負い過ぎるの、逆に子供っぽいよ」

「えっ……」

「ぶはっ」


あからさまに狼狽えて言葉を失った、その様子にうっかり吹き出してしまった。


「……ひでー。揶揄った」

「違うって、揶揄ってない」


笑いを堪えようと、口元を抑えて顔を伏せる。
ちらりと目線だけ彼に向けると、ちょっと拗ねたように唇を尖らせていた。


「嘘ばっか」

「うん嘘。いいじゃない子供っぽくたって」


堪えきれずに、あははと声を上げそうになって危うく抑えた。
また怒るかと思ったけれど、東屋くんは頬杖を突きじっと私と目を合わせたあと、くしゃっと笑った。


そんな仕草はちょっとだけ、大人っぽく見えたりも、した。
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