エリート上司の甘い誘惑
「おねーさん。デザート、パフェにする?」
「会計で揉める方がお行儀悪いよおねーさん」
「おねーさんどこ行くの! 駅こっち!」
「おねーさんおねーさんうるさい!」
ちょっと大人っぽい、とか思ったの撤回!
根に持つタイプだし仕返しが子供っぽい!
「先にお子様扱いしたのはそっちじゃないですか。ほら、足元」
にい、と意地悪に笑ってから、私の腕を取る。
結局、肉料理があんまりおいしくてワインをいただいてしまい、ほどよく酔っている。
店を出て、駅までの道のりはそれほど遠くない。
酔いを冷ますにはちょうど良い距離だ、風もひんやりとして気持ち良い。
「二つなんてたいして変わんないのに」
「結構変わるわよ……あ。ふたつだからかな」
「なんですか?」
「弟が二つ下」
「あー……なるほど」
だからだ。
弟やその友達を、大人だなんて思ったことないしいつまでたっても弟は弟だ。
「送りますね」
確か逆方向なのに、そんなことを言うから遠慮しようと隣を見上げる。
片腕を持ち上げて腕時計を確認する、その仕草が目に入った。
「腕時計好きなの?」
よくよく見ると、結構良い時計なんじゃないかしら、と気が付いてぽろっと尋ねた。
「まあ……好きな方かな。携帯があれば時間見るのにはそれで事足りるんですけどね、やっぱ腕にあると落ち着くというか」
「いくつか持ってたりする?」
「そうですね、仕事用とかプライベート用とか……五つだっけ」
「そんなに?」
そうなのか。
そういうものか、だとするとあれ一個なくても構わない……いや、皆が東屋くんみたいに幾つも持ってるはずないか。