エリート上司の甘い誘惑

「おねーさん。デザート、パフェにする?」

「会計で揉める方がお行儀悪いよおねーさん」

「おねーさんどこ行くの! 駅こっち!」

「おねーさんおねーさんうるさい!」


ちょっと大人っぽい、とか思ったの撤回!
根に持つタイプだし仕返しが子供っぽい!


「先にお子様扱いしたのはそっちじゃないですか。ほら、足元」


にい、と意地悪に笑ってから、私の腕を取る。
結局、肉料理があんまりおいしくてワインをいただいてしまい、ほどよく酔っている。


店を出て、駅までの道のりはそれほど遠くない。
酔いを冷ますにはちょうど良い距離だ、風もひんやりとして気持ち良い。


「二つなんてたいして変わんないのに」

「結構変わるわよ……あ。ふたつだからかな」

「なんですか?」

「弟が二つ下」

「あー……なるほど」


だからだ。
弟やその友達を、大人だなんて思ったことないしいつまでたっても弟は弟だ。


「送りますね」


確か逆方向なのに、そんなことを言うから遠慮しようと隣を見上げる。
片腕を持ち上げて腕時計を確認する、その仕草が目に入った。


「腕時計好きなの?」


よくよく見ると、結構良い時計なんじゃないかしら、と気が付いてぽろっと尋ねた。


「まあ……好きな方かな。携帯があれば時間見るのにはそれで事足りるんですけどね、やっぱ腕にあると落ち着くというか」

「いくつか持ってたりする?」

「そうですね、仕事用とかプライベート用とか……五つだっけ」

「そんなに?」


そうなのか。
そういうものか、だとするとあれ一個なくても構わない……いや、皆が東屋くんみたいに幾つも持ってるはずないか。


< 34 / 217 >

この作品をシェア

pagetop