エリート上司の甘い誘惑
「だって、さっきも言ったけど、急に痩せたし。それにさよさん」

「うん?」

「何かあっても誰にも言わなさそうだから」



そうかな。
私は端から見て、そんな風に見えるのか。


確かに、園田とのことは誰にも言えなかったし、だからこそ今も一人で消化するしかないんだけど。


黙り混んでいると、しびれを切らしたタクシーの運転手に「乗らないんですか」と催促された。


私は慌てて「乗ります」と答えてから、東屋くんの腕をポンと叩いた。



「心配かけてたみたいだけど、痩せたのはほんとにダイエットだし」



そう言ってもまだ何か言いたげな彼に、私は笑って言葉を続けた。



「でも、ありがとう。楽しかったからいい気分転換になった。また付き合ってよ」



ね。
と微笑むと、彼の反応は乏しかった。
ちょっと赤いように見えたから、照れているのかもしれない。


今度こそ乗り込んだタクシーの中でそう気が付いて、ふふっと笑った。



東屋一貴。
チャラそうだけど、からかいがいもあって面白い、可愛い後輩だ。


そして案外気遣い屋で優しいとこがあるのだな、と思った。
自分では顔には出してないつもりだったから驚いた。


かといって、話すつもりもないけれど。
失恋でダメージ受けてます、しかも遊ばれてました、なんて言いたくない。



「…………言ったところで」



誰の得にもならないのだ。
当の園田はもう結婚して子供も生まれるのだから。


タクシーの窓ガラスに頭をもたせかけため息をつく。
ヒンヤリとした空気が窓ガラスから伝わって、頭も酔いも少し冷やしてくれた。


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