エリート上司の甘い誘惑
見つめられると融けそうです、部長



東屋くんとの食事から約二週間ほどが経ち、相変わらず腕時計の持ち主はわからないままだった。


それが今、私の胃を痛めつけている。


なぜあんなものを置いて行ったんだろう。
返さないわけにはいかない。


なのに、持ち主はちっとも姿を現さない。
正直、相手が何も言わないならもういいか、とも思った。


だが、どうしても気になった私は、改めて忘れ物の腕時計を手にとって、うっかり調べてしまったのだ。


「ぱ……パネ? んー……わかんないな」


文字盤のアルファベットを見ても、知らないブランド名だった。
読みがわからずアルファベットの並びをそのまま携帯で検索すると、すぐにそのブランドの公式サイトが見つかった。


他にも「メンズ腕時計ランキング」などのページも公式サイトの次に上がっている。
もしかして人気のあるブランドなのだろうかと、サイトを開き商品一覧を見て驚いた。


「え……え? ひゃ……ひゃく? ……え……ひゃくまん? まじで?」


高価そうな腕時計だなとは思っていたけど、そこにならぶ商品の価格はどれも、予想の遥か上を行った。


どうしよう、こんな高価なものだったなんて。
これは、何がなんでも思い出して返さなければ、とずっと腕時計のことが頭を離れなくなってしまった。


覚えてるのは、知り合いだったような気がすることと、泣いたこと。


他には?


なんとか記憶を辿ろうとするのだけど……そうすると必ずキスの記憶に邪魔され何も出てこない。


あんな、しっとりと身体の芯から融けるようなキスは、初めてだった。
少しも乱暴じゃないのに、混じりあった吐息の熱で互いに欲情してるのが伝わった。


だけど、どこまで触れていいのかわからない、そんな……ギリギリの。


もう一度キスしたら、わかるだろうか。


誰と?


……って。
だから。

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