エリート上司の甘い誘惑

「ちょっと! 何赤くなってんのよやっぱ覚えあるんじゃないの!」

「ちがっ、ないわよ何言ってんの!」

「嘘つけぇ!」

「俺も聞きたいなあ、おねーさん」

「うわっ?!」


突如割り込んだ男の声に、椅子からお尻が飛び跳ねるくらいに驚いた。
あら、と正面にいる望美の目線が私の背後に飛び、恐る恐る、振りむいてみることにする。


「そんな、さよさんの顔を真っ赤にするような出来事があったんですか?」


爽やかイケメンが、真後ろの椅子に座ってにこにことこちらを振り向いていた。
いつからそこに?!


「東屋くんも聞きたいって」


誰が言うか!
恥ずかしい!


「腕時計の持ち主探して、どうしたいんですか?」

「どうもこうも返さなきゃ……ってどこから話聞いてたのよ」

「酔って記憶なくしたことがあるかって辺りから」

「ほぼ最初から!」


声もかけずに真後ろに座って盗み聞きか!


と言うのはちょっと理不尽な八つ当たりだ。
だってここは社員食堂で、誰でもどこに座ったって構わない場所だから。


「さよさんが無防備に際どい話し過ぎなんですよ。聞いてた男が、酔わせたらこっちのもんかとか考えたらどうすんです?」

「わかった。東屋くんとはもう飲まないことにする」

「あ、そういうこと言います?今晩飲みに行きません?」

「いーやー!」


べ、と舌を出して、食べ終えたランチトレーを持って立ち上がり、さっさと退散することにした。
女同士ならいざ知らず、東屋くんにまで根掘り葉掘り聞かれてたまるか。

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