エリート上司の甘い誘惑
合ったままの視線と沈黙の意味がわからない。
焦りと戸惑いで、追い詰められたように言葉を繋いだ。
「あの、ほんとに大丈夫です!ちゃんと間に合いますから」
今まで、どんな小さな仕事も大事にしてきたし納期を過ぎたことはない。
いつも早めにこなして来たつもりだから、仕事に関してある程度の信頼はあると自負していた。
だから。
「はあ」
と深々とつかれたたため息は、ぐっさりと私の胸に突き刺さった。
あ。
やばい。
あきれ、られた。
「あまり、遅くならないように」
と、フロアを去る間際そう言ってくれたのに、余りにショックを受けていて返事もできず見送ってしまった。
静まり返ったオフィスの中で、私が椅子を引いて座り直した音が響く。
いつもは気付かなかったけれど、油がきれているのか耳障りな音だった。
「はやく、済ませなきゃ」
カタカタカタカタ。
カチ、カチカチ。
キーボードを叩く音、マウスのクリックの音。
全部が急ぎ足。
いつもは気にならない程度の音がやけに気になって、それが余計に寂しさや情けなさを増長した。
呆れられちゃった。
せめて、泊まりで残業して迷惑かけたりしないように、終電前には終わらせなくちゃ。
集中し始めた頃、テーブルの上に置いたスマホの振動音にまた気が逸れる。
何よ、と苛立ちながら視線が液晶画面をちらりと見て、そこに表示された名前にどくんとひとつ、鼓動が跳ねた。
「……園田さん?」