エリート上司の甘い誘惑
……え。
何、急に。
別れ話のあと、一切の連絡もなく社内でも個人的な関わりは一切そっちから絶ったくせに、なんで?
しかもなんで、このクソ大変な時に限って連絡してくるわけ?
着信音の短さから、通話着信ではなくメッセージだとすぐにわかった。
おそるおそる、スマホを指で引き寄せて、送られてきたメッセージを読む。
読んだ途端、よく意味が分からなくて思考回路が数秒停止した。
いや、文章自体全く複雑でもなんでもないんだけど、それがあの男から私に送られてきたことの、意味がわからない。
『旅行の土産渡したいんだけど。いつがいい?』
なんで?
旅行の土産を、元カノに?
ってかその旅行って、新婚旅行、だろ。
そこまで考えて、かっと頭に血が上った。
「っざけんな!」
腹立ちまぎれにスマホを振り払うと、スライドして床に派手に落下した。
しまった、と慌てて拾い上げて壊れていないか確認する。
少しキズはあったが壊れてはいないようで、ほっとしたがすぐにまた沸々と怒りが沸いてくる。
「っぁぁあああむかつくっ!」
だんだんだん!
と足を踏み鳴らして、無理矢理怒りを発散した。
何考えてんのか全然わかんない!
こんな宇宙人みたいなやつだっけ?!
怒りに任せて返信しようとしたが、すぐに思い直して止めた。
変に反応したら、なんか余計に腹立つ事態になりそうな気がする。
『あ、送り先間違えた』
とか返ってきたら今度こそブチ切れそうな気がする。
止めよう。
既読無視でさっさと仕事終わらせよう、今はこんなことに時間を割いてる場合じゃないんだ。
パンッ、と両頬を手で叩いて気合を入れ直す。
今ここで仕事に集中できなければ、本当に社会人失格だ。