エリート上司の甘い誘惑

うつむいたまま、手で顔を隠して涙が治まるのを待った。


なんか、ほんと。
弱ってたんだなあ、と涙が出たことで気付いた。


多分、疲れてたんだ。
失恋やら泥酔キス事件やら、色々ありすぎて、気を張り詰めてた気がする。


だからといって、それをミスの言い訳には出来ないけれど。


ずず、と鼻をすすって、いつまでも部長を待たせるわけにはいかないと、そろそろと視線を上げる。


「部長、」


すみませんでした、と繋げようとして言葉が出なかった。
じっと見つめる部長の目が、余りに優しくて、そらすことも出来ない。


「あ……あの。部長?」

「ん?」


なんでそんなに見るんですか?
言葉が続かなくても、わかるだろうに部長は何も言わない。


ただじっと、視線がぶれない。


まるで私の心の中まで覗かれてしまいそうな、不躾とも思える視線なのに、嫌だとは感じなかった。
ただただ、息苦しくて、恥ずかしい。


嫌じゃないけど、逃げたい。
でも目が逸らせない。


「あの、そろそろ……」


帰りませんか、と気を逸らして逃げようとした。
それを遮るように、さっき私の頭を撫でた大きな手が再び私に向かって伸びてくる。


真っすぐ私の顔に、触れそうで。
驚いてぎゅっと、強く目を瞑った。

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