エリート上司の甘い誘惑


片意地を張らなくていい、とそう言ってくれたのだと気が付いて、嬉しいやら情けないやら恥ずかしいやら、どうしようもなく胸が苦しくて。


明日からまた頑張ろう、と改めて心に誓ったことで、すっかり忘れてしまっていたことがある。


あの時、部長が「大丈夫か」と聞いた意味がなんだったのかを、結局聞きそびれてしまった。
失態に狼狽える私にかけられたとも考えられるけど、少し雰囲気が違った気がする。


それに、見つめられた時の視線の熱さも……あの時間はなんだったのか、と考え始めるとドキドキして仕方がないけど、これは聞きようがない。


あの時、なんであんなに熱く見つめたんですか。
なんて聞けるわけがない。



翌日、出勤して顔を合わせても当然いつも通りだった。



「酷い。酷いじゃないですかさよさん」

「何がよ」



資料室で去年のファイルが並んだ棚から、目的の資料を見つけては東屋くんに手渡す。
彼は、昨日私が部長と食事に行ったのを知り、いっそわかりやすいくらいに盛大に、拗ねた。

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