エリート上司の甘い誘惑
このまま帰れば酷く塞ぎ込んでしまいそうで、そうなったら立ち直る自信もなくて、通りがかった小さなBarに足を踏み入れた。
自分を知ってる人間が誰もいない場所で、逆にほっとできるなんて経験初めてだ。
気が抜けたら、式で飲んだシャンパンが今頃になって程よく脳内を酔わせ。
「ブルームーンを」
カウンターの中にいるバーテンダーに、お気に入りのカクテルを頼みこのままアルコールに身を任せてしまうことにした。
このカクテルを教えてくれたのも、園田だ。
思い出して泣けてきたが、今はこのカクテルが自分にお似合いな気がして同じものばかりを、何杯飲んだだろう。
ブルームーン。
叶わぬ恋、できない相談。
もう、暫く男なんかコリゴリだ。
「別に、まだ結婚なんか考えてなかったし。今の仕事楽しいし?」
「自分に自信のある女性は、とても魅力的ですよ」
カウンターの奥にいる綺麗なバーテンは聞き上手のほめ上手で、さすが酔っ払いの話相手に慣れている。
心地よく酔いは回った。
「別に、自信なんてないケド」
「そうですか? だったら持った方が良い」
ほわほわほわ、と視界が揺れる。
淡い菫色したカクテルの美しさに酔いながら、口のうまいバーテンダーを軽く睨む。
優しい煽て文句には救われる。
でもね、と、哀しくなった。