エリート上司の甘い誘惑

というか、なんでそんなこと聞くんだ。
そんな風に誰かに囁かれるほど、東屋くんと仲良くし過ぎただろうか。


いや、仲良くってか。
彼がいつの間にか後ろにいるだけなんだけど。


「口説かれてんの?」

「は? 違いますよ普通に懐かれてるだけです」

「へー……案外、ヘタレだな」

「何よ、何が言いたいの?」


イラっとして、つい敬語が抜けた。
さっきから、何のために私と話してるのかさっぱりわからない。


園田が、東屋くんを意識してるのは知ってる。
だけど、今の園田の口調には、何かそれだけじゃない、馬鹿にしたような声色を感じた。


どうにか、彼を貶める何かを探したいのか?
そんなに小さい男だったか、園田。


これでも、付き合ってた時は好きだったんだけど。
ほんとに、好きだったんだけど。


「傷心のお前につけこもうと必死だろ、あいつ」

「……は?」


いい加減イライラもマックスだが、園田のセリフに眉を顰めた。


「傷心って……誰が?」

「だから、お前が」

「なんで」

「俺が結婚したから」


その自信に溢れた表情に嫌気もさしたが無視できない。
だって、ちょっと待って。どういうこと?


「……東屋くん、私達のこと知ってるの?」

「なんだ、お前じゃないのか」


コーヒーのサーバーを横に置いて、ようやく真面に園田を見上げる。
彼は、何が意外だったのか瞠目して言葉を続けた。


「あいつ、俺に食って掛かって来たからさ、お前と付き合ってたんじゃなかったのかって。てっきりお前が話したのかと思った」

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