エリート上司の甘い誘惑
なんで?
どこかで園田と一緒にいるとこを見られたとか?
それとも。


「それ、いつの話?」

「結構前だぞ、上司に結婚の報告して招待状出し始めた頃だったかな。……ほんとにお前じゃないんだ」

「私が言うわけないでしょ!」


まさか、泥酔キス事件の時に愚痴で零して、相手が実は……という考えが頭を掠めたが、どうやらそうではないらしい。


最悪だ、付き合ってた当初こそ、誰かに言いたい気持ちを抑えていたものだったが、今となっては知られたくなんかない。
それを、誰が好き好んで。


「だよな……お前が言いふらすわけないよな」


言えるわけがない。
そんな私の言葉を、園田は自分の為だと勘違いしたのだろうか。
彼が不意に腰を屈めて、耳元で囁いた。


「悪かった、さよ」


付き合っている頃、喧嘩して彼が私のご機嫌を取る時みたいな、甘い声で。
久しぶりに耳元で名前を呼ばれ、ぞく、と背筋が震えた。


好きだった時には確かに心地よかったその感覚を身体はしっかり覚えていて。
頭は正反対に拒絶する。


咄嗟に手を振り上げて、彼の顔を遠ざけた。


「やめてよ、もう。そういうの」

「なんで。昨日も連絡したのに」

「旅行のお土産ならもうもらった!」


フロアの人数で、箱のお菓子を分けてもらった!
私はけったくそ悪くて望美にあげちゃったけど!
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