エリート上司の甘い誘惑

あの男は、周囲の目とか気にならないのか!
いや、寧ろ周囲の目を利用しようという魂胆を隠しもしないとこが腹が立つ。


ぱたぱたと熱くなった顔を手で仰ぐ。
望美は相変わらずにやにやと楽しそうだ。



「部長も機嫌悪かったしね? さよ、なんか楽しいことになってるね!」

「は? 楽しいわけないでしょ。システム課のシェアリングなんて後のこと考えたらしんどいだけだもん。そりゃ部長も機嫌悪いはずだよ」

「いや……そういう意味じゃないんだけどまあいいや」

「何よ」

「いーえ。なんも。それより腕時計の方はどうなったの」



話を逸らされたような気がするが、逸れた先が今一番気になっている事項であったこともあり、私はテーブルに上半身を乗り出した。



「それなの。どうにかして探す方法ないかな、って考えてんだけど」



やっぱり、その件がすっきりしないことには私は前にも後ろにも身動き取れない。
何より、ちゃんと意識がある状態で会ってみたいしあの夜のことをちゃんと聞きたい。



「前にも言ったように、よ。わざと腕時計残して言ったんなら」

「うん?」

「私なら、最近急接近してきた人物をまず候補に挙げるけど」

「……最近?」



うん、と頷きながら、望美は焼き鳥の串に噛り付く。
あっというまに身を食べつくすと、ぽいっと串入れに差し込んだ。



「あんたの今の状態なら、東屋くんが第一候補」

「なんで?! ないって。だって翌日、全く知らん顔して普通に声かけてきたよ?!」

「さよが酔ってて覚えてないってわかってたんなら、そら、言いづらいでしょうよ」

「……なんで」

「酩酊状態の女押し倒して好き放題キスを堪能しましたなんて、普通言えないと思うけど」
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