エリート上司の甘い誘惑
涙を拭ってくれた手は、優しすぎて余計に泣けた。
あの手は……誰の手だった?


久しぶりに感じた、抱きしめられる温もり。
体温って、こんなにも安心できるんだ、と酒にも空気にも酔っていた。


ぎゅ、と強く抱き寄せられて、瞼や頬に唇が触れた。


キスされた、と認識した次の瞬間、唇同士がとても危うく近い距離まで近づいていた。


相手は何も言わなかった気がする。
私の泣き声も止まった。


唇を重ねていいのかどうか。


互いの空気を読む、一瞬の駆け引き。
そんなキスの仕方をしたのは初めてで、異様にドキドキしたのを覚えてる。


奪うようなキスじゃない。
ゆっくりと、もどかしいくらいに


唇の柔肌が、触れ合った。


「あぁぁぁ!!!!」


と叫んで一旦記憶発掘作業を中断した。
思い出しただけで心臓がバクバク鳴り始めて、体温まで急上昇したからだ。


なんなの!
キスの記憶はやけに鮮明なのに、相手がさっぱり思い出せない!


いや、夢?
やっぱり夢だから相手が思い出せないんだろうか。
< 9 / 217 >

この作品をシェア

pagetop