エリート上司の甘い誘惑
すみません、と謝ろうとした。
だけど、部長の表情を見た途端、まるで保護された子供みたいな気持ちになってしまって。
「…………はい」
と、やけに小さな声でやけに素直な返事が一つ、漸う出ただけ。
私を咎めたはずの部長が、酷く優しくて物憂げな表情だったから。
今しがた、自分が誰の目線に怯んでいたのかもどうでもよくなった。
「……ここ。西原が一番関わってくるのは、この辺り」
「はい」
大きな手が資料を何ページか捲って、一点を指差す。
耳に響く優しい低音が、心地よく安心をくれた。
ああ、これがプライベートなら。
今すぐ恋に落ちそうな気がするけれど。
「……このシステムが動き出したら、他のメンバーに教えるのは西原の役目になるからな」
「ええっ?! はい!」
残念ながら仕事中である。
そうか、だから園田以外に私も呼ばれたのかと得心がいく。
これまでになく緊張するシェアリングになりそうだった。
今更急に、知識を取り繕えるわけはない。
ただ、わかることとわからないこと、実際にこの資料にあることを実施した場合、不安に思う部分など情報の整理は出来たように思う。
内容的には、日々の業務の進捗状況を社内のネットワークで管理し、必要な管轄で共有する情報を作るというもの。
確かに利点はありそう……というかあるからこんな話が出ているのだろうとは思うけど、毎日熟さなければならない仕事が増える。
この会社で一番広いミーティングルームの正面に立ったシステム課の人は、柔らかい雰囲気の女性だった。
こんな優し気な人が……どう考えても非難轟々となりそうなこの場を仕切るのか、と心配したがなんのなんの、この女性が強い。
どんな反対意見にも、怯むことなくだけど喧嘩腰になるでもなく、終始にこやかに丁寧に説明をし理解を求める。