エリート上司の甘い誘惑
そうだ、何も、卑下することはない。
自分の仕事をするために、必要なことを聞き意見を言うだけ。
部長の言葉に顔を上げれば、偶然にもあの女性と目が合った。
わざとなのか偶然なのか、そのタイミングでぽんと背中を叩かれて。
「はい!」
と、手を上げてしまった。
やばい、もう引き下がれない。
どうぞ、と促され立ち上がる膝が緊張でカクカクと震えた。
しっかりしろ自分、と腹に力を入れて声を出す。
「営業課の、西原れす!」
噛んだ。
上擦った上に、噛んだ。
「す、すみません緊張しててっ……」
「ぶはっ」
と、隣から吹き出す声がして、ちらっと目線だけ動かすと部長が顔を背けて肩を震わせている。
……酷いと思います。
笑うなんて。
そもそも、部長が急に背中叩いて煽るから。
恨めしく部長を睨んだが、それを引き金にクスクスと周囲からも笑い声が上がり、場の空気が少し緩んだ。
私は思いっきり恥をかいたが、案外和やかに質問と意見を口にすることができた。