エリート上司の甘い誘惑
お前、可愛いな




この頃何せ、酒を飲む機会が多い。
なので今日はウーロン茶で、と一応遠慮したのだが、まあ一杯は付き合えと言われグラスを差し出す。


恐れ多くも部長にお酌をしていただき、私も、とビール瓶に手を伸ばしたが、部長はさっさと手酌で注いでしまった。



「お疲れさん」

「疲れました」



どっと疲れましたとも、ほんとに。
乾杯、とグラスを掲げる手も重い。


だけど、あの緩んだ空気が良かったのか、あの後はしどろもどろになることなく、きちんと順序立てて話すことが出来た。
進行していた女性も丁寧に答えてくれたし、その上私が指摘した箇所を今後の修正点に加えてくれたのだ。


あれで良かったのかどうかわからないし、稚拙な意見だったかもしれないと思うのは変わらないけれど、なんともいえない達成感があった。


自分の考えを誰かに伝え、対等に意見を交わしそれが形となってあらわれる。
たとえささやかな案であっても、だ。


仕事にたいする考え方を、あらためるきっかけをもらった気がする。


どうせ実行されるなら少しでもより良く出来るように、と改善して欲しい点を幾つか上げた。
それが前向きだととらえてもらえたようで、シェアリングの雰囲気を切り替えるきっかけにもなったと部長にはおほめの言葉をいただいた。


そんなわけで、約束の美味いものを食べさせてもらいに連れて来られたのは小料理屋だ。


それほど気取るような店ではなく、気軽に暖簾をくぐれそうなあたたかな空間と小さなお座敷。
そして、店主が魚にこだわっているそうで。



「美味しい! 美味しいです部長!」



ずらりと並んだ料理に舌鼓を打つ。
今まで食べた魚料理とは味付けも鮮度も違った。


創作和食なのか、一品一品の彩りも美しい。
つい夢中に箸を進めて、はたと我に返ると、向かいに座る部長が「くく」と喉を鳴らして苦笑いをする。



「ほんとに上手そうに食うな、西原は」

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