イケメン御曹司のとろける愛情
 私はカウンター越しにぺこりと頭を下げた。

「どういたしまして。それより、パンプスに傷はついてなかったかな? 結構力を入れて引っ張ってしまったんだけど」
「あ、いいえ、大丈夫でした! おかげで助かりました」
「よかった」

 男性がホッとしたように言った。意志の強そうな口元がほころび、やっぱりステキな笑顔だな、と思う。

 うっとりしそうになって、あわてて会話の糸口を探す。

「あ、あの、お買い物ですか?」
「そうなんだ。隣のカフェに行ったんだけど満席で。エスプレッソをもらえるかな」
「あ、はい。サイズはどうされますか?」
「レギュラーで」
「かしこまりました」

 私はセルフコーヒー用のカップを男性に差し出した。値段を言うと、彼がスーツの胸ポケットから財布を取り出す。

 会計が終わったら、彼はこのまま去ってしまう。次はいつ会えるかわからない。

 別世界の人だとわかっているけれど、せっかくこうして会えたんだから、もう少し彼のことを知りたい……。

 そのくらいならいいよね?

 私は勇気をかき集めて、お金を受け取りながら話しかける。
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