イケメン御曹司のとろける愛情
 大丈夫。着実に前に進めている。いつまでもイタイアラサーなんて言わせない。

 スマホに翔吾さんの電話番号を表示させた。名前を見ると胸が痛くなるのは、彼の裏切りを知って傷ついているからじゃない。指先が震えるのは、まだ彼が好きだからじゃない。

 大きく深呼吸して、彼の番号を着信拒否設定にした。

 また一つ、私がイタイアラサーになっている原因を取り除いた。


***


 月曜日のバイトも正午からだった。終わったあとに三好さんと会うことを考えてドキドキ半分、ワクワク半分の高揚した気分だ。

 アンバー・トーンでのレギュラーライブ。夢にまで見たレギュラーライブ!

 つい鼻歌を歌ってしまいそうだけど、仕事に集中、集中!

 六時になってバイトを上がろうかな、と思ったとき、五時からバイトに入っている真緒ちゃんに声をかけられた。

「山本さん、チキンナゲットが売り切れちゃったんで、帰る前に揚げてもらってもいいですかぁ?」
「いいよー」

 チキンナゲットくらいならいくらでも揚げてあげちゃう。私、今日はすごく機嫌がいいから。

 なんて心の中でつぶやきながら調理場でチキンナゲットを揚げていたら、自動ドアが開く音が聞こえた。レジの前にいた真緒ちゃんが別のアルバイトの女性にささやく声が聞こえる。

「ね、あの人、すっごいイケメン」
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