イケメン御曹司のとろける愛情
「それはこっちのセリフだ。いったいどういうことなんだ?」

 押し殺したような翔吾さんの声が降ってきて、背中に嫌な汗が浮かぶ。

 まさか、翔吾さん、私がジャズピアニストの奏美だって気づいてる?

 そ、そんな。でも、どうにかごまかさなくちゃ!

「人違い、されてますよ」

 そう言ったとたん、左手をぐいっと引っ張られた。

「あっ」

 後ろによろけ、気づけば目の前に翔吾さんがいた。

「俺が間違えるわけないだろ」

 正面から見据えられて、私は首を縮込めた。言葉が出てこなくて、ただ目を開いたまま彼を見返す。

「今朝、俺の部屋から黙って消えたかと思ったら、電話に出てくれない。あげくに着信拒否をする。しかも今度は他人のフリまでしようとするなんて。奏美さんはいったい俺のなにが気に入らなかったんだ? 突然、そんなふうになったのはどうしてなんだ? ワケを教えてほしい」

 翔吾さんが言って、苦しそうに表情を歪めた。

 俺はなにも悪くないのに、私の行動に傷ついている、みたいな顔だ。よくもそんな顔ができるわね。
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