イケメン御曹司のとろける愛情
「ありがとうございました」

 バーテンダーににこやかに微笑みかけられ、円崎さんは軽くうなずいた。

「ごちそうさまでした」
「また来てくださいね」
「ええ、もちろん」

 円崎さんは私に視線を向けた。

「奏美さん、本日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました」

 円崎さんが高級ブランドのおしゃれなハンドバッグを持って立ち上がった。私も立ち上がってバーテンダーに会釈をした。彼に見送られながら、アンバー・トーンの外に出る。

 エレベーターホールの前に来て、私はクラッチバッグから財布を取り出した。

「お誘いしたのは私の方なので、代金をお支払いしますね」

 私が言うと、円崎さんがうっすらと微笑んだ。

「曲を使用させていただく交渉の一環として、経費で落としますから結構です」
「そうなんですか。ではお言葉に甘えてごちそうになります。ありがとうございました」

 私のお礼の言葉に円崎さんは軽くうなずいたが、すぐに額を手で押さえて、エレベーター横の壁にもたれた。

「あぁ、やっぱりダメだわ、今日は帰れそうにないかも」
「えっ」

 私はあわてて円崎さんに近づいた。このまま倒れられたりしたら大変だ。
< 134 / 175 >

この作品をシェア

pagetop