イケメン御曹司のとろける愛情
「それはひどい言い方だな。でも、円崎さんの価値観でいくと俺も下層の人間だね。京浜運河の近くにあるペンキの剥げかけた工場が俺の原点だ。鉄とオイルの匂いが鼻を突き、耳が痛くなるような金属音が響く工場の敷地に、ミナガワ・エンジニアリングの本社がある」
「水無川さんに言ったんじゃないの! あなたはもうすっかりアッパーフロアの人間よ。おしゃれなスーツが似合う洗練されたステキな人」

 円崎さんが取りなすように言って翔吾さんの腕に触れようとした。だが、翔吾さんは一歩下がって冷めた声で言う。

「悪いけど、俺は初号機が納入されたらミナガワ・エンジニアリングを継ぐんだ。円崎さんが言う違う世界に戻るんだよ」
「水無川さん!」
「そういうわけだから、円崎さんとは公私混同できない」

 翔吾さんはきっぱり言ってスーツのポケットからカードキーを取り出し、円崎さんに差し出した。

「お嬢様のキミには狭いかもしれないが、気分がすぐれないなら泊まってくれてかまわないよ。俺はほかの部屋に泊まるから」

 円崎さんはキレイな顔を歪めて唇を噛みしめていたが、やがてぷいっと私たちに背を向けた。
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