イケメン御曹司のとろける愛情
「冗談でしょ、こんな狭い部屋。もう帰るわっ」

 そうしてすぐにバッグを腕にかけ、部屋から出てくる。目の前を素通りした彼女を、翔吾さんが呼び止めた。

「円崎さん」
「なによ」

 円崎さんは怒りと恥ずかしさが入り混じったような赤い顔で振り返った。

「奏美さんに対して失礼な態度を取ったことをお詫びした方がいいと思う。こちらは曲を使わせていただく立場なんだよ」

 翔吾さんに言われて、円崎さんは私たちから見えない方に顔を向けた。

「俺も一緒に謝るから」
「いいえ」

 円崎さんは言って何度か肩を大きく上下させていたが、やがて私に向き直った。

「お酒が入っていたとはいえ、失礼な態度を取ったことを心からお詫び申し上げます」

 そう言って円崎さんは頭を下げた。顔を上げたときの彼女は、できるキャリアウーマンの顔になっていた。

「広報会議でも『フライ・ハイ』は弊社のイメージにぴったりだということで意見が一致しております。最初のお話の通り、曲を使わせていただけますか?」

 円崎さんの表情に少しだけ不安がにじんでいる。社外の人間に私情を挟んだ態度を取ってしまったことを不安に思っているのかもしれない。
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