イケメン御曹司のとろける愛情
 雪絵さんに背中を押され、私は調理場の横にあるドアから事務室に入った。タイムカードにスタンプを押し、更衣室に入って制服からスーツに着替えた。スニーカーからパンプスに履き替え、ガーメントバッグとボストンバッグを持って、従業員通用口から外に出る。

 はあぁ、緊張する。

 カフェの近くにあるエレベーターホールで、下行きのエレベーターに乗った。行き先は同じビル内にあるステイトリー・ホテル東京だ。ホテルにアンバー・トーンのオーナーが控室を用意してくれているのだ。

 でも、ホテルには専用のエレベーターに乗らなければ行けないため、いったん一階のエントランスまで下りた。そして、四十二階から五十一階を占めるホテル専用エレベーター乗り場に向かう。

 ほかに待っている人はおらず、私は一人でエレベーターに乗り込んだ。エレベーターは静かに、でも高速で上って、フロントのある四十二階に着いた。

 この前、横浜にあるホテルのバーでライブをしたけど、そこは三十八階だった。四十二階なんて高層階、生まれて初めて来た。

 ドキドキしながらフロントデスクに近づく。ライトブラウンの艶のあるカウンターの向こうには、シックなダークブラウンの制服を着た女性がにこやかな笑顔で立っている。

「あのう、今日、アンバー・トーンでライブをする予定の山本奏美と言います。オーナーの三好(みよし)さんから、控え室が用意されていると聞いたんですが……」
「うかがっております。五〇〇一号室です。係の者がご案内いたします」
「お願いします」
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