イケメン御曹司のとろける愛情
番外編 運命の歯車
「よろしければ、僕がやってみましょうか?」

 俺が声をかけると、エレベーターのドア下の隙間からパンプスを必死で引き抜こうとしていた女性が、顔を上げた。黒縁メガネの奥の目を潤ませ、今にも泣き出しそうな表情をしている。

「僕の方が力があると思うので」

 庇護欲をかき立てられて手を伸ばすと、彼女はパンプスから手を離した。俺は急いで左手をパンプスのかかとに、右手をヒールのつけ根に添えて、ぐっと力を入れる。すぐにパンプスはスポンと抜けた。

「あ、ありがとうございますっ」

 真っ赤な顔で彼女が礼を言った。

「どういたしまして」

 彼女が履きやすいように右足の前にパンプスを置いた。彼女の右手を取って促すように立ち上がる。

「どうぞ」
「す、す、すみません」

 さっきから赤かった彼女の顔が、さらに赤くなった。

 彼女がパンプスを履いたのを確認して、エレベーターの中の人に声をかける。

「お急ぎのところお待たせして申し訳ありませんでした」

 俺が一礼すると、彼女もあわてて頭を下げた。
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