イケメン御曹司のとろける愛情
「せっかくだけど、俺はいいよ」
「どうして? 樋波明梨って有名なジャズピアニストなのよ? きっとロマンチックな時間が過ごせるわ」

 俺は左手で前髪を整えるフリをして、円崎さんの腕から逃れた。

「いや、プライベートな時間に二人きりで会わない方がいいと思う。これ以上ネットの記事に根も葉もないことを書かれるのは、個人としても会社としてもよくないだろ?」
「そんなことないわ。どんな記事でも取り上げてもらえれば話題になるもの。会社として名前を売ることは必要よ」

 だからって、円崎さんと“公私ともに熱い仲!?”っていうのはなぁ……。

 円崎さんがバッグからスマホを取り出し、なにか操作する。

「だから行きましょうよ。今日のライブの時間はね……」

 俺がため息をついたとき、円崎さんが「あら」と声を上げた。

「どうしたの?」

 彼女を見ると、不満そうな顔でスマホを俺に向けた。

「樋波さん、急病で今日のライブはキャンセルなんですって。残念だわ」

 円崎さんがつまらなさそうに言った。でも、俺の目はスマホの画面の下半分に釘付けになる。

 もしかして……。
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